<Header>
<Author: 杜甫>
<Title: 哀江頭>
<Format: 樂府詩>
<Year: 1964>
<BookName: 唐詩選　上>
<Translator: 斎藤晌>
<style: 現代文無假名>
<style2: 日本現代譯文無假名標注>
<TranslatedTitle: 哀江頭>
<BookPage: 98>
<UsedPage: 1>
<Feature: 1, 4>
<End Header>
<Poem>
少陵野老吞聲哭，
春日潛行曲江曲。
江頭宮殿鎖千門，
細柳新蒲爲誰綠。
憶昔霓旌下南苑，
苑中萬物生顏色。
昭陽殿裏第一人，
同輦隨君侍君側。
輦前才人帶弓箭，
白馬嚼齧黃金勒。
翻身向天仰射雲，
一箭正墜雙飛翼。
明眸皓齒今何在，
血污遊魂歸不得。
清渭東流劒閣深，
去住彼此無消息。
人生有情淚霑臆，
江水江花豈終極。
黃昏胡騎塵滿城，
欲往城南忘南北。
<End Poem>
<Translation>
少陵の野人、この年老いたわたしは聲をおさえて泣いているのだ。のどかな春の一日、こっそり曲江のかたほとりにやってきた。曲江の岸邊に立ちならぶ宮殿はみなしめきって堅く門をとざし、ひっそりして人氣がない。柳の絲がのび蒲の新芽がふいて昔ながらの綠にもえているが、さて誰に見せようと春のよそおいをこらしているのか。 おもいおこせば、その昔、皇帝がこの南苑に行幸されたことがあった。あのときは南苑の草木も鳥獣も、まるで生きかえったように光りかがやいて見えたではないか。宮中第一のお美しい方も皇帝と同じ御輦に乗っておともをされ、おそばにかしずいておいでになった。御輦の前には武装した女官が數名騎馬で供奉の役をつとめていたが、 その一人、才人という位の女官が背に弓と箭をしょったりりしい姿で、金のくつわをかませた白馬にまたがって、さきを打たせていた。たまたま、空高く飛ぶ鳥を見つけると、弓をとって矢をつがえ、さっと身をひるがえして、上を仰ぐと見るまに、天に向かって矢をはなった。矢は弦をはなれて高く高くまるで雲を射るかと見えたが、竝
んで飛んでいた二羽の鳥がただ一つの矢につらぬかれて、ひらひらとそこに落ちてきた。
あの澄んだひとみと白い歯をした美しいお方も、今はどこへおいでになるというのだろう。いたわしや血のけがれ、宙にまようたましいは歸って行かれるところがない。 渭水は東に向かって流れているし、劍閣は深く、その道は遠い。みんなばらばらになってしまって、去るものと、とどまるものは分かれたきり。この長安と皇帝の蒙塵遊ばされた蜀とのあいだ、音信も交渉も杜絶してしまった。

人間と生まれてきて感情というものがあるから、わたしは胸がぬれるほど涙が出てとめどがない。曲江の水の流れや岸邊に咲く花は非情のものだから、あいかわらずそのまま流れつづけ、そのまま咲きつづけるだろう。とつおいつもの思いにふけっているうちに夕方になってきた。長安は異民族の軍隊が騎馬で横行するので、町中さわがしく塵埃が舞いたっている。わたしは城南に行こうと思って、荒れた巷に出たが、いつか路にまよって城北に向かっているのに氣がつかなかった。 
<End Translation>
<Formatted Translation>
少陵の野人、この年老いたわたしは聲をおさえて泣いているのだ。
のどかな春の一日、こっそり曲江のかたほとりにやってきた。
曲江の岸邊に立ちならぶ宮殿はみなしめきって堅く門をとざし、ひっそりして人氣がない。
柳の絲がのび蒲の新芽がふいて昔ながらの綠にもえているが、さて誰に見せようと春のよそおいをこらしているのか。
 おもいおこせば、その昔、皇帝がこの南苑に行幸されたことがあった。
あのときは南苑の草木も鳥獣も、まるで生きかえったように光りかがやいて見えたではないか。
宮中第一のお美しい方も皇帝と同じ御輦に乗っておともをされ、おそばにかしずいておいでになった。
御輦の前には武装した女官が數名騎馬で供奉の役をつとめていたが、 その一人、才人という位の女官が背に弓と箭をしょったりりしい姿で、
金のくつわをかませた白馬にまたがって、さきを打たせていた。
たまたま、空高く飛ぶ鳥を見つけると、弓をとって矢をつがえ、さっと身をひるがえして、上を仰ぐと見るまに、天に向かって矢をはなった。
矢は弦をはなれて高く高くまるで雲を射るかと見えたが、竝
んで飛んでいた二羽の鳥がただ一つの矢につらぬかれて、ひらひらとそこに落ちてきた。
あの澄んだひとみと白い歯をした美しいお方も、今はどこへおいでになるというのだろう。
いたわしや血のけがれ、宙にまようたましいは歸って行かれるところがない。
 渭水は東に向かって流れているし、劍閣は深く、その道は遠い。
みんなばらばらになってしまって、去るものと、とどまるものは分かれたきり。
この長安と皇帝の蒙塵遊ばされた蜀とのあいだ、音信も交渉も杜絶してしまった。

人間と生まれてきて感情というものがあるから、わたしは胸がぬれるほど涙が出てとめどがない。
曲江の水の流れや岸邊に咲く花は非情のものだから、あいかわらずそのまま流れつづけ、そのまま咲きつづけるだろう。
とつおいつもの思いにふけっているうちに夕方になってきた。長安は異民族の軍隊が騎馬で横行するので、町中さわがしく塵埃が舞いたっている。
わたしは城南に行こうと思って、荒れた巷に出たが、いつか路にまよって城北に向かっているのに氣がつかなかった。 
<End Formatted Translation>